インド紀行
南インド産地巡りの旅
夜十時を回った頃だっただろうか。
ジェット機の窓の下に、チェンナイの街の灯りがゆらゆらと浮かび上がってきた。
それは宝石を散りばめたようでもあり、遠い約束の地がこちらへ手を振っているようにも見えた。
成田を発ち、シンガポールで乗り換え、南インド・チェンナイへ。
今回の旅は、取引先である廈門豪逹の社長、曾さんに同行し、検品と取引のために現地を巡るものだった。
こうして、
南インド・インド材産地巡りの旅が始まった。
チェンナイ、バンガロール、ハイデラバード、マハバリプラン。
観光に充てられたのは、わずか二日ほど。
残る十日間は、石の産地と工場の視察に明け暮れる、濃密な時間だった。
黒の銘石、
本クンナム、カルサヌール、M1-H、Y-1、カラハリ、MD-5――
次から次へと現れる石の名に、改めて思う。
やはり、インドは大きい。
土地も、資源も、そして時間の流れも。
新たに産出したばかりの石があり、まだ呼び名もないという。
「名前を付けてほしい」
そう頼まれた場面もあった。
石に名を与えるという行為が、単なる商取引ではなく、歴史の一端に触れる瞬間であることを実感した。
長い車移動の時間も、この旅には欠かせなかった。
延々と続く車窓の景色を、ただぼんやりと眺めている。
それだけで、心が整っていくのが分かる。
また、この国を訪れたくなるのは、なぜなのだろうか。
理由はうまく言葉にできない。
ただ、石と人と土地が、静かに記憶の奥で呼び合っている――
そんな感覚だけが、今も残っている。
